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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

門番志願の妖精にキレる

「良いですか、皆さん~。私が大声を上げたり、指の笛を鳴らしたら、それは侵入者がやって来たという合図なのよ~」
「はぁ~い」
 紅魔館の門番を務める紅美鈴が妖精メイド達に訓練をしている。この妖精達は『門番隊』と区別される妖精である。
 通常、紅魔館に居る妖精達は館内の雑用係である。掃除、洗濯、食事の用意等。
 妖精達は興味本位で紅魔館に訪れ、成り行きでメイドになる者達ばかり。
 するのも自由、辞めるのも自由ということになっていた。
 妖精達は基本的に、館主お付きの従者にしてメイド長を勤める十六夜咲夜の命令で働いていることになっている。
 が、やはり妖精なので言われた仕事をきっちりしている妖精は皆無であることが実情。
 その中でも雑用に飽きた妖精達が『門番隊』を志願する。『門番隊』とはその名の通り、門番を職務とする集団のこと。
 この場合指揮を取っている者は紅美鈴であり、妖精達は彼女の言うとおりに動かなければならない。
 とはいえ、妖怪の中でも和やかな性格をしている彼女の笑顔からは厳しそうな感じが全くしない。
 それもあって門番隊を志願する妖精は少なくなかった。
「皆さん、弾幕は張れますよね?」
「はーい。でも……」
「良いんです、自信のない子はそんなに飛ばさなくても」
「はーい!」
「それじゃあ、少しお茶にしましょうか? 休憩が終わったら、どんな弾幕を張ればいいか教えますからね♪」
 美鈴の淹れるお茶は人気がある。お茶菓子がついて、美鈴の笑顔も見られるからだ。
 数十人、いや数十匹居る妖精達は美鈴のところへ並び、一匹ずつお茶をもらった。
 妖精達は皆彼女のおもてなしに満足しており、門を守ることなど考えて居ない者だらけであった。
「美鈴様のお茶、美味しいね」
「うん」
 妖精達にもそんな気は無い様子で、休憩を楽しむためだけに来たような者ばかり。
 誰一人として緊張感を持った妖精は居なかった。
「はいはい! 休憩は終わりにして、実際に訓練をしましょう~!」
「はぁーい」
 妖精達が横一列に並び、一匹ずつ美鈴から弾幕を教えてもらう。
 自機狙いか、偶数弾か、ばら撒きか。クナイ弾なのか、大玉なのか。
 弾幕を飛ばすことが苦手な妖精に対しても丁寧に教える美鈴の姿に妖精達は惹かれていた。
「はーい、それじゃあ皆で実際に弾幕をばら撒いてみましょうか!」
「はーい!」
 妖精達は皆不真面目に訓練を始めた。その中には美鈴に言われた通りの弾幕を飛ばさない者も居た。
「皆さん~、ちゃんと私の言った通りの弾幕を飛ばしてくださいね~! 忘れた人にはもう一度教えますから~!」
 それでも妖精達は彼女に耳を貸さず、各々で勝手な弾を飛ばし続けた。
「ちょっとー、皆さん私の言うこと聞いてくださいよ~!」
 わいわいがやがや、宴会騒ぎの様にまで発展した。騒ぎのうるささにメイド長が一瞥をくれた程。
「わー! それそれー!」
 妖精達の中の一匹が撃った弾が偶然にも美鈴のお腹に飛んでいった。
 美鈴は被弾した衝撃で倒れてしまい、妖精達はあわてて弾幕を止めた。
「美鈴様、美鈴様!」
「大丈夫ですか!」
 大した怪我もない様子で、お腹を摩りながら苦笑の表情で起き上がった美鈴。
 彼女は近くに居た一匹の妖精の顔を掴み、握力をかけた。
「いだだだだだだっ!」
「私は何と言いましたか?」
 空気の変わり様を察知した妖精達は黙り込み、顔を握られている惨めな妖精をじっと見守る。
「美鈴様、痛いです! い、痛いです……やめてください!」
「皆、私の言うことを聞いて、私が教えた通りの弾幕を飛ばしましたか?」
 妖精の目の周りから血が流れ出した。握力で頭蓋骨の中が圧迫されているせいである。
 涙の様に零れて行く血を見た妖精達がざわつき始めた。
「美鈴、様。めいりん……さまぁ、許してくださ……許してください! えぐっ!」
 泣いているのか、血が流れているのかわからない。ぼたぼたと目の周りから流れ続ける血の量に数匹の妖精達が逃げようとした。
「はいはい、今逃げようとした子達。まだ話は終わってないんだから、逃げちゃだめよ?」
「……」
「めいり……様。めいりん……様」
 美鈴の手から逃れようと妖精が暴れ始めるが、妖怪と妖精とでは力に差がありすぎる。
 いつもの様な、朗らかな笑顔を続けている美鈴が握っている妖精の顔を覗き込んだ。そして目を瞑り、微笑む。
「だずげで、誰かだずげでっ!」
 とうとう妖精は悲痛な叫びを上げ、周りに助けを求めた。しかし誰も助けない。助けられない。
 美鈴の静かな恐怖に身を強張らせているから。
 そのうち妖精が暴れるのを辞めた。物も言わなくなり、尿をたらし始める。血は未だに止まらない。
 美鈴はその妖精を床に落とし、胸を踏みつけた。
「良いですかぁ~、皆さ~ん! ここに居る妖精さん全員に言っているんですよ~?」
 踏みつけられた妖精の首が九十度横を向いた。気を失ってか、絶命してしまって体の力が無い証拠。
 目の横が大きく凹まされた妖精の顔を見た他の妖精達が悲鳴を上げた。驚き、小水を漏らす妖精もいる。
「聞こえてますか~? この子は私の言う通りの弾幕を飛ばさなかったから悪いんですよぉ~?」
 笑顔を絶やさないまま近くに居た、黄色い髪の妖精の首を掴んで持ち上げた。
 足をばたつかせて暴れるものの、美鈴の強大な膂力の前には無意味。
「はい、あなたもですよ。私が教えた通りの弾幕をせずに、ふざけていた罰ですからね♪」
「~~~~~!」
 言葉にならない叫び声を上げる妖精。締め付けられ、圧迫された頚動脈。みるみる内に妖精の顔色が抜けていく。
 青白いを通り越して紫色の顔になり、もう叫び声も上げられない状態であった。
「私の言うことさえ聞いてくれれば、こんなことはしないんですよ」
 手を離し、妖精を床に落とした。かろうじて死んでいないのか、咳き込む妖精。
「侵入者を通してしまうことは、それだけ館にとって苦しいものなの。それを良く理解してもらわないといけないの」
 咳き込む妖精を抱え上げ、背中と胸に手をやった。腕に力を入れ、万力の様に妖精の体を締め付ける。
「あがががっ! ぐるじ……あぐっ!」
 一体どれ程の力で締め付けられているのだろう。妖精の口から唾液と胃液がが混じった液体が吐き出されている。
 先ほど休憩のときに飲んだお茶も混ざっているのだろう。
 透明で、少し粘っこい液体は次第に赤くなっていく。締め付けで軋み、砕けていくあばら骨。
 腕に血がかかり、美鈴の右手は赤く染まっていく。床も。
 やがてその妖精も動かなくなった。死んだことを察知し、床に落とす。
 次に近くに居た、ツインテールの妖精の胸倉を掴んだ。その妖精は自分も殺されると思い、泣き叫んだ。
 それがスイッチとなったのか、恐怖に腰を抜かしていた妖精達が意を決して逃げ出す。
「待ちなさい~!」
 美鈴が声を張り上げる。辺り一帯に美鈴の気迫が響き渡る。逃げようとした妖精達がまた足を止める。
 いや、動かせない様である。館主顔負けの迫力を宿した美鈴が薄ら笑いを浮かべて、胸倉を掴んでいた妖精を蹴り飛ばした。
「逃げたら殺しますよ♪ どこまでも追いかけて、殺しますからね。言うことを聞かない子は、皆殺しますからね♪」
 その場に居た妖精達が一斉に悲鳴を上げた。そして美鈴は気の術を用いて爆発を起こし、妖精達を皆バラバラにしてしまった。



「咲夜さぁ~ん、門番隊に入りたいって子は居ませんか?」
「あなたが声をかければ殆どついて行くんじゃない? 家事なんて実質私が全部してるし、問題ないぐらいよ」
「さすがにそこまでは……門番隊の教育というのも難しいですし、そこまで数は要りませんよ」
「ところで美鈴、騒ぎがあったと思うんだけど……何だったの?」
「気にしないでください。ちょっと妖精達を叱っただけですから」
「……血だらけだったんだけど」
「妖精達を叱っただけですから」
「……そう」
「今日はもう遅いから、お先に失礼しますね。おやすみなさい」
「え、ええ……おやすみなさい、美鈴」

 門番隊を志願する妖精達は多い。彼女の笑顔に釣られて、楽しそうだと思う妖精が多いから。

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